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「鉄道員」(ぽっぽや)の京極堂的解釈



「彼は...、佐藤音松氏は、許して欲しかったんだよ。」

「どういう意味だい?それが、亡くなった雪子が音松さんの前に現れた事と、どう結びつくと言うんだ、あれはどう考えても赤ん坊の時に亡くなった雪子の霊が、父親である音松さんの前に現れてお礼を言ったと言う話じゃないか」

「相変わらず君は胡乱だねぇ、いいかい、まず雪子が亡くなったのは彼女がまだ1歳にもならない時期だ、その彼女が17歳の姿で父親にお礼を言いに現れると言うのは不自然だと思わないかい?、霊というのは成長するものなのかい」

「それは、霊なんだからどんな姿で現れるかなんて解らないんじゃないのか」

「君は、霊と妖怪を混同しているよ、いいかい古今の文献を見ても霊というのはその人姿をしているものだ、それも亡くなったときの姿をしているんだ、世に妖怪と言われる物の中には化けると言われるものもある、世に言う狐狸の類だね、そうして見ると雪子は0歳で亡くなっているんだから、霊だとするなら0歳の姿でなければならないんだよ。」

「しかし、あれは話の中にもあったように雪子が音松さん、いや父親に成長する姿を見せに現れたと考えるのが自然だよ、第一彼女が雪子でなければ何だって言うんだ、まさか雪女だとでも言うのか、確かに音松さんは雪の中で凍死していたが...まさか、そうなのか!」

「まったく君には呆れるね、雪子の霊の次は雪女かい、いいかい...世の中に不思議なことなど何もないのだよ、雪女なんて現実に居るわけがないだろう」

「じゃあ、あれはなんなんだい、あれこそが不思議じゃないかい」

「あれは、死ぬ間際に音松氏が見た夢だよ」

「おいおい、言うに事欠いて、夢落ちかい、そりゃあいくらなんでも無茶だ、第一、音松さんは以前にも幼い姿の雪子を見て居るんだぞ、亡くなる前の夢だと言うには時間的無理が有り過ぎると僕は思うがね」

「君は、あのストーリーの展開が何かに似ているとは思わないのかい?」
「まったく君は今までの事件から何かを学ぶと言うことは無いようだね、いいかい、全ては脳を通して脳が見せている映像を自分の記憶として認識していると言う事を忘れてはいけない」


「何を言いたいんだい」

あれは、まるで夢そのものじゃないか、過去と現代のエピソードが幾重にも交錯している様は、まるで混濁した意識が見せる夢そのものの姿じゃないか」
「まあ、それは良いとしよう、しかし、君は彼には持病があると言う伏線があったのに君は気がついているかい?」

「そう言えば、そう言っていたな」

「これでは監督も気の毒だ、これは、最後に彼が亡くなるという事に関して重要な伏線なんだよ、これがあるからこそ、見ている我々が彼の突然の死に対して唐突と言う印象を持たないだろ、そして墓に刻まれた自分の名前...これは彼がこの場所で死ぬという暗示と共に彼が先になくなった家族に対して深い悔やみの気持ちを持っていることも表している。」

「それが雪子とどう結びつくんだ、君の話はさっぱり判らない」

「だから、彼は許して欲しかったんだよ」

「鉄道員としての自分を全うするために亡くしたと彼が思いこんでいる家族に対して、家族の象徴としての雪子に詫びてそして許して欲しかったんだ、だから雪子は現れなければならなかった...」

「0歳の雪子では彼を許すことなど出来ない、だから17歳と言う年齢になった雪子が必要だったんだよ、成長していったと言うのは雪子が0歳でないと言う事への理由付けでしかないのだから、他の意味はない、だとすれば彼女は17歳でなければならなかったんだ。」

そうして、彼女に着せた亡き妻、静枝の赤いベスト、あれは雪子に許されると同時に妻、静枝にも許されたいと言う意味もあったんだ、いやむしろ妻にこそ詫びたかったんだろうな。」

「しかし、子供の頃の雪子はどう説明するんだ、それに雪子が持っていた人形は他の人間も見ているぞ」

「君は見たと言っているが、それとても音松さんの主観で描かれている場面ではないのかい、音松さんが亡くなった後の場面には人形が出てこなかったはずだ、違うかい?」

「そして、子供の頃と君は言うが、そもそも我々は脳を通して物事を認識していると先に言ったことを理解していないようだね、我々の脳は、しばしば都合良く記憶を改竄してしまうのだよ」

「じゃあ、君は幼い雪子も...」

「残念ながら、あれも彼の脳が作り出した辻褄の合う過去でしかない」

「過去でしかないって、君はよくそんな冷たい事が言えるものだなあ」

「君はよくよく主観にとらわれて、物事の本筋と言う物を見失う人間なんだね」
「いいかい、17歳の雪子が台所で料理を作っている後ろ姿を見て、君はどう思ったんだい、あれが広末涼子に見えたのかい」

「それが、今の話とどういう関係があるんだ、関係ないじゃないか」

「関係ないと思うその事自体が、表面的な雪子の霊という存在に目を奪われて、君が何も肝心なことを見ていない証拠じゃないか、いいかい、あれは、あの後ろ姿のシーンだけは大竹しのぶなんだ、赤いベストを着て台所に立つ静枝なんだよ」

「そう言われれば、確かにそう見えたような気もするが、それが何だって言うんだ、君の話はいつも肝心なところが判らないよ」

「本来、こういう事は説明するんじゃなくて見て解るものなんだが、...」

「いくら君が胡乱でも、先ほど僕がむしろ妻にこそ許されたかったと言ったのは覚えているだろうね、彼が心の底で真実詫びて許して欲しかったのは、妻の静枝だったと言うことさ。」

「だったら、静枝の霊が出てくれば良い話じゃないか、もし全ては音松さんの脳が作り出した亡くなる前の幻影だとするなら、何故一番詫びたかったはずの静枝さんの姿で現れないんだ、おかしいじゃないか」

「いいかい、例えば君が世の中で一番引け目を感じている相手とそうでない相手が居るとする、君はとても悪いことをしてどちらかに謝らなければならないんだが、さて、先に謝るとしたらどちらに君は謝るんだい?」

「それは、引け目の少ない相手の方が謝りやすいな」

「そういう事だよ、彼が一番不幸にしたと思って悔やんでいるのは僅か0歳で亡くなった雪子なのか、それとも何十年共に生きてきて、自らの職業哲学のために死に目にも逢えなかった妻なのか、考えなくとも判る事じゃないか」

「彼は、妻に詫びたい、しかし妻は自分を恨んで居るんではないかと言う不安もある、不器用な音松さんは怖くて素直には妻に詫びることができないんだ、それで妻の分身としての雪子が現れる必要があったんだよ、いや、目の前にいるのが静枝でなく雪子だからこそ音松さんは素直に、自分の悔やみを告白する事ができたんだ、雪子は静枝でもあったのだよ。」

「そして雪子の作った料理の味は妻静枝の料理の味がしたんだろうな。」


「だから胸が一杯になったと言ったのか、つまり、それだけ佐藤音松の罪の意識は深かったと言うことなのか」

「そうだね、無くした取り返しのつかないものの象徴が妻の料理=妻の存在だったんだ、彼は雪の中で最後の間際に雪子を通して妻に詫び雪子に詫び、そしてついに許されたんだ。」
「おとうさん、ありがとうってね」

「そういう意味だったのか...」

「それが判れば、それ以外の事は些細な事でしかないのだよ、人形は彼の夢の中にだけしか存在しなかったかもしれないし、あるいは雪子の棺桶には入れられずに、彼が鉄道の遺物と共に押入の奥に仕舞い込んだ過去として封印してあったものかもしれない、幼い雪子の現れた過去も17歳の雪子の現れた現在も、彼の脳が間際に構築した彼だけの彼を許して解放してくれる世界だったのかもしれないんだ。」

「そうか、僕はてっきり最後の日に亡くなった娘の幽霊が現れて不器用な人生を生きてきた父親と過ごす切ない物語かと思っていたよ」

「表面的な事柄だけに拘泥すると、本来有るべき物すら見えなくなってしまうものなんだ、佐藤音松氏の許されたい心の痛さを解ってあげられれば、もっと別な物語になると思うよ、本来こんなことは解説すべきじゃないんだが...」

「僕は、なぜ、妻の静枝が雪子と一緒に出てこないのか、出てこないのは恨んでいるのかと不思議だったんだ、だって雪子が出てくるんだったら静枝だって出てこれるはずなんだろう、そうか雪子は静枝だったのか」

「いいかい、世の中に、不思議なことなど何もないのだよ」


お粗末様でした。
わたくし、「鉄道員」のビデオを見て不覚にも、うるうるしてしまいました。
しかし、人の意図で泣かされるのは絶対に嫌なので、一生懸命こんな解説を考えてました。
いきそうなとき、他のこと考えて気を紛らわすでしょ、あれです。


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